Blue Moon Redux

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「所属本能」はFACTFULNESSの最大の敵

ハンス・ロスリングの『FACTFULNESS』という本には、データを見たり、情報を解釈するときに気をつけるべきとされる10の本能が出てくる。

 

- 白黒で物事を捉えてしまう「分断本能」

- 今の変化が今後も継続すると考えてしまう「直線本能」

- 鮮明にイメージできるものほど危険度が高いと考えてしまう「恐怖本能」

などだ。

 

ただ、この本では扱われていないが、現代人が情報を取得し、解釈するときにもっとも気をつけるべき本能は、「集団本能」や「所属本能」とでもいうべきものかもしれないと思う。集団本能とは分断本能の亜種のようなものだが、「俺の側」と「あいつらの側」を白と黒で分けて考え、あいつらの主張はすべて間違っていて、俺たちの主張はすべて正しい、と考えてしまうことだ。この本能に取り憑かれると、自分や自分の属する集団の価値観に合致しないデータや主張はすべて無視することになり、結果事実にもとづく判断が下せなくなってしまう。

 

この本能は「俺たちの側」と「あいつらの側」で世界を分ける点で分断本能の亜種だと言えるが、しかしFACTFULNESSで扱われているような、世界には「富める国」と「貧しい国」がある、といった個々の事実を白と黒で分けて判断することよりもはるかに影響範囲が大きい。というのも、ある「側」に付くことはその側が受け入れるさまざまな事実や主張をすべて受け入れ、さらにその色眼鏡で、入ってくるすべてのデータや情報を解釈することになるからだ。「私は左翼/右翼だ」、と表明することは同時に「私は野党/与党を支持する」、「私は人権問題に特別関心がある/ない」、「日本は変わるべきだ/べきでない」、などなどさまざまな信念を持っていると表明することになる。少なくとも、多くの人からそういう信念を持っているのだろう、と思われることになるのだ。

 

強いイデオロギーは、FACTFULNESSの最大の敵ではないだろうか。